竹ヶ花日記

高齢出産を経て松戸で子育てしながら働く母さんの日記です。

日英翻訳の現場で出会う価格競争について

私が現在やっている翻訳は、8割がカルテル調査関連の日英翻訳だ。

外資系企業では、本国に業務報告をする際に本社が理解できる言語を使用することが必要になる。少し分野は異なるがカルテル調査の場合だと、例えば米国司法省に証拠書類を提出する際に、外国語の文書を英語に翻訳することが必須である。

そのような翻訳に、「翻訳コストが安い」という理由で日本円以外の通貨で報酬を得ている翻訳者が起用されることがしばしばあり、これが脅威となっている。現在の勤務先には翻訳をするパラリーガルが私以外にも数名いるのだが、「東京のパラリーガルや翻訳者はコストが高い」ということで敬遠されることがある(主に米国のクライアントからの依頼案件で)。

しかし、このように費用を削減しようとする試みが、かえって裏目に出ることもあるということを私は言いたい。

上記のような背景で仕上がってきた翻訳を、東京ベースの弁護士やパラリーガルが品質チェックをすると(政府当局に提出する書類なので当然必要となるプロセス)、業界の専門用語のみならず「日本語話者なら常識レベルで知っているような」言い回しを知らない・理解できていないことがわかる、間違った翻訳であることが判明する。すると、翻訳文書全体の信頼性も当然のことながら低くなり、結局東京で二次レベルの翻訳(要はやり直し)をすることとなってコストも増える。具体的な例としては、クライアント企業の社員が使用していた手帳を証拠書類として収集、外部ベンダーによって翻訳した際に、「ほとんどの文字が読めないので翻訳できない」といったメモが付されたものが成果として上がってきたので、「どれだけ汚い字なのだろう」と中身を見たところ、ごくごく普通の、日本人男性による手書きメモで、結局私が訳しなおしたこともあった。そのような文書のプロパティを見ると、日本以外のアジア人がAuthor名として記録されていることも多い。

先日はeディスカバリーのレビュー作業においても「東京のレビュワーはコストが高いから使いたくない」というクライアントの要望があったが、現地のレビュワーの作業効率が悪く必要な情報が収集できなかったので結局東京でやることとなった。

確かに、米国、中国、韓国などの翻訳会社のオファーする翻訳料金は魅力的かもしれない。反復的な内容を含む文書などであれば、利用する価値はあるだろう。しかし、文書の性質によっては日本語を母国語とする翻訳者を利用するニーズは決してなくならないと私は考える。